身体知研究会

身体技能を言語化する方法論の確立

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更新日 2020-01-24 | 作成日 2015-10-14

身体知研究会

第14回研究会を以下のように開催しました:

  • 日時:2012年 11月16日(金)および17日(土)
  • 場所:慶応義塾大学 日吉キャンパス 來往舎(東急東横線,東急目黒線,横浜市営地下鉄グリーンライン)
  • 参加費:無料(ただし合同予稿集は有料です)
  • 予稿集 [LinkIconPDF] SKL-14 (4 pages)] 升田・古川,「音楽の練習指導とコラボレーション」のみです.ほかは発表原稿を公開していません.


一般発表

日時:2012年 11月17日(土) 9時30分より11時30分まで

知識・技術・技能の伝承支援研究会(SIG-KST)との共同開催

(は「知識・技術・技能の伝承支援研究会」からの発表です)

小俣貴宣(東大),大澤幸生(東大)
項目反応理論によるブランド識別力テストの作成※
[概要] 項目反応理論は、複数の評価項目に対する回答パタンに基づき、回答者の能力や評価項目の特性を測定するテスト理論であり、異なるテスト間の比較を容易にしたり、能力をきめ細かく測定できるなどの特徴がある。本発表では、項目反応理論を用い、任意の人物が同じカテゴリの製品の中から特定のブランドを見分ける力をどの程度有しているか調べるためのテストを作成した事例を紹介する。


奥野敬丞(九州先端科学技術研究所), 稲邑哲也(国立情報学研究所 / 総合大学院大学)
微妙な動作の違いの認識をアシストする手法に関する研究
- デフォルメ動作と注意的言語表現を用いて人間に動作コーチングするロボットシステム -
[概要] 状況に応じて,言葉で情報を伝える事が有効な場合,ジェスチャーで情報を伝える事が有効な場合,言葉とジェスチャーを適切に組み合わせる事が有効な場合がある.伝える事,情報が受け手に認識してもらう事が容易ではない情報を,どのように伝えるか事が,円滑なコミュニケーションの確立,ゴールのあるタスク達成に影響するのか?
 本発表では,上記の問題に取り組む研究の具体例として,ロボットによる人間への動作コーチングの研究に関して議論する.
 認識する事が容易ではない,学習ターゲット動作と動作学習者のパフォーマンスの微妙な違いを,動作学習者の認識をアシストする事を目的に,動作学習者のパフォーマンスに応じて,動的に提示する動作(デフォルメ動作)と,コーチングに用いる言語インストラクション(注意的言語表現)を変化させる手法をする.
 提案手法を実装した,ロボットシステムによる人間へのテニススイングのコーチング実験にて,動作の向上を促進する事を確認した.統計的な有意差を確認して,デフォルメ動作が学習の向上因子である事を確認した.注意的言語表現は統計的な有意差をもって,向上因子である事を確認する事はできなかったが,正の相関がある事を確認した.

稗方和夫(東大),大和裕幸(東大),○ソンショウギョク(東大),
中垣憲人(住重マリン),菅原晃佳(住重マリン)
3次元計測データによる曲がり外板加工方案設計プロセスのバーチャル化と知識抽出
[概要] 造船所における船首尾を構成する曲がり外板の加工方案の設計は、木型を板の上に固定して行う見通し線による目線確認の結果に基づいて属人的に行っている。本研究では、実物の木型による評価の代わりに職人が曲がり外板と木型を使って行う加工方案設計プロセスを計算機上でバーチャルに行う機能、加工方案の自動生成機能、バーチャル環境での設計履歴の記録機能を開発した。開発したシステムにより、加工プロセスの設計ルールを知識として抽出する。


田中紗織(MIDアカデミックプロモーションズ),松坂要佐(MIDアカデミックプロ
モーションズ),中園薫(NTT 京都工芸繊維大学)
手話動作のリズムを意識させる手話学習システムの開発
[概要] 私たちは、2002年に、手話の読み取りスキルを向上させることを目的とした自習型手話学習システムを開発した。今回は、既存システムに改良を加え、手話のリズムを意識しながら、手話表現を学べる機能を実装する。

特集「教える」

日時:2012年 11月17日(土) 11時30分より14時まで(12時から13時まで休憩)

知識・技術・技能の伝承支援研究会(SIG-KST)との共同企画

本研究会には人工知能の研究者だけでなく,身体技能の開発と教授に実務的に関わっておられる方々も多く参加しています.現場の方々と身体知研究者の交流を積極的に推し進めたく,このたび「教える」ことをテーマとして小特集を組むことにしました.身体知は自覚しにくい,言葉で表現しにくいといった特徴がありますが,それは技能を生徒や弟子に教える際,一層明確に意識されます.特になかなか伝わらない時,身体知の問題が顕わになると考えられます.

本特集では,日頃,様々な分野で技能を教えている先生方に登壇いただき,どのような点が難しいと感じているかを中心に技能伝承の問題を語って頂きます.また研究者の側からみて伝承困難と思われる事柄を紹介していただきます.本特集は問題の解決を提示するよりは,何が問題なのかを洗い出し,今後の研究課題を明らかにすることを目標としています.


升田俊樹(チェリスト),古川康一(嘉悦大学)
音楽の練習指導とコラボレーション LinkIconPDF
[概要] オーケストラなどを指導するのにはその作品に適したイメージを持つことが大切になり、その曲の演奏をするためには、更に体をどのように使ったら良いかと言うことが重要となる。そこには、右手の弓への圧力・及びスピードの変化(加速・減速)などの複雑な変化が含まれる。さらに厳密に言うならば右手の問題だけでなく、左手指先のどの部分で弦を押さえたら良いかと言う問題もあるが、実際の演奏ではこれ等の膨大な組み合わせを無意識に出来るまで訓練する。楽器演奏において「教える」ことの最も大切な事は、無意識に体で音楽を表現できるようにする事であり、“無意識”に出来るようにするためには、最初に、体をどのように使うのかを“意識”をした練習から、同じことを何度もくりかえして、無意識に体が動くまでを訓練する。このためにも演奏者に“イメージ”を持ってもらう事が、上達への早道となる。本発表では、第一著者と第2著者によるコラボレーションから2部構成になり、楽器の演奏に特に大切だと思われる“イメージ”についての考察を行う。

藤田尚(ピアニスト・ピアノ教師),藤波努(北陸先端科学技術大学院大学)
ピアノ演奏指導における諸問題
本発表ではピアノ学習者の習得段階を入門、初級、中級、上級レベルの4段階に分け、各レベルごとに学習者が直面する問題を概説する。入門レベルではピアノを長時間練習できる基礎的な身体能力を身に付けることが目標である。初級レベルではテンポ維持、メロディの表現、左右の手の連係などが課題となる。中級レベルでは楽曲の理解とその表現が課題となる。上級レベルでは身体の負担となる無理な動きをやめることが課題に入ってくる。全体を通して、ピアノ演奏に求められる身体能力や認知能力を明らかにする。

小シンポジウム「リズムと身体運動の関わり」

日時:2012年 11月17日(土)午後3時から5時30分まで

バイオメカニズム学会のご厚意により,「リズムと身体運動の関わり」と題してシンポジウムを開催しました.本シンポジウムはバイオメカニズム学会誌(Vol.36 No.2) 特集「リズムと身体運動」を受けて企画されたもので,掲載された各論文の題目と著者は以下の通りです.(小宮山伴与志先生を除く6名が登壇しました)

  1. 『特集「リズムと身体運動の関わり」に寄せて』 岩見雅人(東京農工大学)
  2. 『ヒトにおける四肢運動のリズム形成とその反射性制御』 *小宮山伴与志(千葉大学)
  3. 『子どものリズムと動きの発達』 佐々木玲子(慶應義塾大学)
  4. 『伝統技能におけるリズミカルな動作』 藤波努(北陸先端科学技術大学大学院)
  5. 『音楽リズム運動の生成と同期』 藤井進也(ハーバード大学医学部 ベス・イスラエル・ディコーネス・メディカルセンター)
  6. 『舞踊動作と音楽・リズムの関係』 水村真由美(お茶の水女子大学)
  7. 『「間(ま)」の共創が拓く未来』 三宅美博(東京工業大学大学)

以下の話題について話し合いました.

  • なぜリズムに着目するのか(理論的な観点から)
    • リズムという視点をとることでどのような現象がみえてくるのか
  • リズムの有用性(実践的な観点から)
    • リズムに着目することでどのような利点が得られるのか
    • (または)どのような応用が考えられるのか
  • 重要な課題はなにか(理論面あるいは実践面について)
    • 現在,未解決であるが,将来解明されると大きな前進が期待できる問題はなにか
    • ブレークスルーを起こすと期待される技術は何か

以下に概要を掲載します。


子どものリズムと動きの発達
佐々木 玲子(慶應義塾大学)
子どもは成長に伴い,神経系機能の発達を基盤に多種多様な動きを身につけ,さらにその動きは洗練されていく.外界からのリズムを読み取り自身の動きを適切に調節していくことも可能になり,特に抑制的な調節能力の向上にその発達をみることができる.幼少期の動きの発達には,知覚,認知などの機能および環境が相乗的に作用し,そこに時間調整的要素をもつリズムは非常に関わりの深いものとなっている.

リズムと身体運動の関わり
岩見 雅人(東京農工大学)
日常的な運動のみならず,スポーツや舞踊などの巧みさや美しさを伴う運動において,「リズム」は身体パフォーマンスに多大な影響を及ぼしている.しかし,リズムと身体運動の関係性は未だ解明されていない部分も多く,パフォーマンスや学習効果の向上など,その潜在的な可能性は計り知れない.今回の発表では「スポーツ動作とリズムの関係性」について,研究結果と経験的解釈も交えて議論していきたい.

音楽リズム運動の生成と同期
藤井 進也(ハーバード大学医学部 ベス・イスラエル・ディコーネス・メディ
カルセンター)
音楽家は,弛まぬ練習を積み重ね,初心者にとっては大変困難なリズム運動の生成と同期を実現することができます.これら音楽家の身体運動には,巧みなリズム運動の神経制御メカニズムや,学習に伴う中枢神経系の適応的変化の仕組みを解くための鍵が多く潜んでいると考えられます.本発表では,我々のグループがこれまで行ってきた,世界最速ドラマーの表面筋電図活動に関する研究を紹介しつつ,高度なリズム運動の生成と同期を実現する,音楽家の身体運動制御戦略について議論したいと思います.

舞踊動作と音楽・リズムの関係
水村 真由美(お茶の水女子大学)
踊るという行為は,音楽のリズム,メロディ,ハーモニーと共にある.しかし多くの先行研究は,「踊り」と「音楽」を個別に検証してきた.これは不自然な研究アプローチといえるが,それだけ踊りと音楽の関係が複雑かつ多様であることも意味している.音楽やリズムが舞踊動作に及ぼす影響を発育発達および動作の習熟との関連から検討した結果から,舞踊と音楽(リズム)の関連性について意見を交わしたいと考えている.

伝統技能におけるリズミカルな動作
藤波 努(北陸先端科学技術大学大学院)
伝統技能の伝授は「習うより慣れろ」式に行われる.それはなぜだろうか.陶芸の菊練りの研究では筋力の違いにより練り方が二種に大別されることがわかった.一方,サンバ演奏の研究では演奏の仕方に大きな違いは見られなかった.これらの結果から,動作が満たすべき要件が緩まると個人差が現れるらしいと推察される.個人差があるゆえに師匠のやり方をそのまま真似ても必ずしもよい結果に結びつかないのであろう.個人差があると言ってもリズムという観点からは大きく二種に分類されるのではないかと思われる.本発表では菊練りとサンバ演奏を比較しつつ,リズミカルな動作を作り出す二つの異なった戦略を検討する.

「間(ま)」の共創が拓く未来
三宅 美博(東京工業大学大学)
共創システムとは人間のコミュニケーションをその内側から捉えるシステムである.本研究会では,主観的時間としての「間(ま)」に注目し,その生成とインターパーソナルな共有の仕組みについて紹介する.具体的には,協調タッピング課題を用いたリズム運動の相互引き込みのモデル化を踏まえ,人間と人工物のインタラクション,特に歩行リズムのリハビリテーション支援への有効性を示す.これは人間を内側から支援する新しいシステムに向けての第一歩である.

プログラム(11月17日)

一般発表
09:30-10:00 小俣貴宣,項目反応理論によるブランド識別力テストの作成※
10:00-10:30 奥野敬丞,微妙な動作の違いの認識をアシストする手法に関する研究
10:30-11:00 稗方和夫,ソンショウギョク,3次元計測データによる曲がり外板加工方案設計プロセスのバーチャル化と知識抽出※
11:00-11:30 田中紗織,手話動作のリズムを意識させる手話学習システムの開発
特集「教える」
11:30-13:00 休憩
13:00-13:30 升田俊樹,古川康一,音楽の練習指導とコラボレーション
13:30-14:00 藤田尚,藤波努,ピアノ演奏指導における諸問題
全体討論
14:00-14:50 SKLとKST幹事らによる討論
14:50-15:00 休憩
シンポジウム
15:00-17:30 「リズムと身体運動の関わり」 協賛:バイオメカニズム学会
岩見雅人,佐々木玲子,藤波努,藤井進也,水村真由美,三宅美博

11月16日のプログラムについてはLinkIcon知識・技術・技能の伝承支援研究会(SIG-KST)の参加案内をご参照ください。

主査(代表) 藤波 努 (北陸先端科学技術大学院大学)
主幹事 諏訪正樹 (慶應義塾大学)
幹事 

  • 古川康一 (嘉悦大学) 
  • 橋詰 謙 (大阪大学) 
  • 大武 美保子(千葉大学)
  • 松浦 慶総(横浜国立大学)

問い合わせ先

 skl-reg(at)jaist.ac.jp
 上記(at)部分は@マークに置き換えてください






































小俣 貴宣










奥野 敬丞












稗方 和夫







田中 紗織

























升田 俊樹



古川 康一








藤田 尚


























































佐々木 玲子





岩見 雅人






藤井 進也





水村 真由美

















三宅 美博





















古川 慈之